6.28.2008

『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』/竹内 一正

ビジネス界の異端児スティーブ・ジョブズの仕事ぶりを「交渉力」という切り口から紹介した本です。面白いアイデアだとは思うのですが、ジョブズの伝記としては物足りなく、ビジネス書として仕事に活用しようにもジョブズの言動があまりに常人離れしていて役立てられません。結局どっちつかずに終わってしまっている、というのが僕の正直な感想です。

2007年に同じ著者・出版社から刊行された『スティーブ・ジョブズ 神の交渉術』を読者の要望に応じて再編集したとありますが、一体どんな要望だったのでしょうか…?

本書が役に立たない理由は2つあります。

1つはジョブズ自身があまりにエキセントリックな人物だろうということ。エレベーターに乗っている間のスモールトークで満足のいく回答が返ってこなかっただけで社員をクビにすることもある、というのは他の本でも読んだことがあります。が、ものすごいスピーチで形勢を逆転しただとか、ホワイトボードに自分以外の人が書き込もうとしただけでその人物をクビにしただとか、どこまで信じていいのか分かりません。

また、これらは2つ目の理由につながるのですが、著者がジョブズに心酔しきっているため、バイアスのかかった書き方になっていると思わざるを得ないこと。ジョブズの武勇伝の数々が、コンテクストもなしに事象だけ取り上げられているので眉唾に感じてしまいます。さらに際立たせようと、「普通は」とか「凡人は」という言葉をやたら使いまくっているのも興ざめです。

ジョブズはジョブズだからいいのです。一般の人がジョブズの真似なぞしたら、とんでもないことになることは容易に想像がつくでしょう。