2.27.2010

『ブラインドネス』

もし突然目が見えなくなったら? ポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマゴの小説を原作とした映画『ブラインドネス』は、人間が生きる希望とは何か、人間の尊厳とは何か、といった究極の問いを投げかけます。

ある日突然失明するという疫病が蔓延した某都市を舞台にストーリーは展開します。接触感染することが分かったことから、政府は患者を強制的に隔離します。収容施設では日に日に患者が増大し、目が見えないことから争いは絶えず、衛生状態も悪化。すると「王」を名乗り、供給される食料を管理しようとする人物が現れ…。実は一人だけ、夫のそばにいたいからと、目が見えるのに収容施設に潜り込んだ女性がいました。彼女は「王」への戦いを挑んでいきます。

疫病の原因が明らかにされないこと、なぜ一人だけ感染しないのかをあげつらうことは野暮です。こういったシチュエーションに陥ったら人間はどういう行動を取るのか、いつ治るとも分からずいつ施設を出られるとも分からない中、何を希望に生きていくのか、を疑似体験することにフォーカスすべきなのですから。

施設内では人種、国籍、職業、社会的地位といった属性は無意味です。お互いの年齢も肌の色も顔も分からない中、話す言葉だけで人間性を判断して連帯していく。目が見える世界では人種差別に苦しんだあろう眼帯をした黒人の老男性が、「今まで生きてきた中で一番幸せだ」と言った場面は感動的です。目が見えない人たちの中で、ただ一人目が見える女性は「神」です。でも彼女はその状況を悪い方向に利用しようとしません。あくまで夫に献身的に寄り添っていたいだけ。そこに絶対的な愛を感じます。

極限状態の中でも人間としての尊厳を保つことが果たして自分にはできるのか、見ながら考えさせられました。そして原作を読みたくなりました。恐らくこの内容は映像より活字の方が、よりリアリティを持って迫ってくるでしょうから。