昨夜は、Temple University, Azabu HallにてNation Brandingについての講義を受けてきました。Keith Dinnieというこの分野の第一人者が講師を勤め、受講生は大半が外国籍の人でした。
Nation Brandingという言葉は聞きなれませんが、その名の通り「国家のブランディング」です。以下、簡単にノートを。
■Nation Brandingとは
・まだ学術的には掘り下げられていないにもかかわらず、膨大な実作業が必要な分野
・visual, identity, history, cultureなど総合的な働きかけが必要
・その時の政権が方針を決めるため、政権交代によりがらりと方針転換することも
■Nation Brandingの3つの目的
1 観光客の招致
2 自国への投資を奨励すること
3 自国製品の輸出を増加させること
それに加え、
4 外交において影響力を増すこと
5 留学生や(知的)労働者を引き付けること
■Nation Brandingの例
1 イギリス
・ブリティッシュ・カウンシルによるCool Britanicaでは、creative, innovative, modernなイメージを打ち出している
・ただ、イギリス人の半分くらいは、このイメージは実態に合っていないと感じている
・多くの留学生を呼び込み、経済・社会が活性化するなど、成功していると言える
2 スコットランド
・The Best Small Country In The World.というキャンペーンを実施
・これは他の小国の出身者はもちろん、スコットランド人からも不評
■日本のNation Branding
・「日本のイメージと評価を上げ、世界中の人から愛されリスペクトされる国を目指す」というのがスローガン
・各官庁が行っているが、一般にはほんとんど浸透していない
具体的な施策としては、
1 豊かな食文化をアピール
2 多様で信頼できるローカルブランドを作る(ソニーとか)
3 日本のファッションをグローバルブランドにする
ノートは以上です。
ちなみに、Nation Brandingに一番成功していると言われる国はスイスだそうです。確かに好きな国・行きたい国投票なんかでも大抵1位ですものね。
そして、この分野においても日本は後進国だと感じました。いつも思うのですが、日本人が英語勉強したりして国際化するよりも、Nation Brandingをしっかりやって、外国人を多く呼び寄せることで日本を国際化させた方が早く効率的ではないでしょうか? また、海外で日本について話すときって人それぞれだと思うのですが、これに関してもbrandingによってひとつの拠り所ができるのではないでしょうか。
もう1点学んだのは、リーダーシップの重要性です。ブランディングにおいても、誰かが立てた方針を誰もが気に入るわけではありません。だからこそ、強烈なリーダーシップをもって思い切って行動する必要があると思うのです。
2.28.2008
国家にもブランディングが必要だ。
ラベル: business
2.27.2008
『乳と卵』/川上未映子
読んでみました。31歳の若さ、歌手としても活躍している美人作家、2作目にして芥川賞受賞、と話題性には事欠かないこの小説。
しかし、文学ってホント分かりません。
読点で文章をつなぐだけで、一文がやたら長くて読みにくい文体。それも関西弁がベースになっているから、言葉を理解しきれない読者もいるかもしれません。でも、我慢して読んでいるうちに、この文体が心地よく感じられるようになり、目が離せなくなったりして。
ストーリーは、豊胸手術をしようとする母とコミュニケーション・ブレイクダウンに陥った小学生の娘が、東京の妹(娘にとっては叔母)を訪ねた先で言葉を取り戻すというもの。このあたりの話は、30代男性の僕には最も縁遠いことなので、ほとんど共感できませんでした。ただ、ストーリーはこの際重要ではなく、ディテールに現代を生きる人の見えない叫びが翻訳されています。その意味では、文学として成功していると言えるのでしょう。
芥川賞選考会でも賛否両論で、絶賛する人もいれば、石原慎太郎氏なんかはメッタ斬りにしたとか。ひとつ言えるのは、文学には正解などないということでしょう。
ラベル: books
2.26.2008
『家を借りたくなったら』/長谷川高
部屋探しをしている真最中に、タイムリーな新刊が出ていました。最新の賃貸事情が網羅されている、賃貸生活者のためのマニュアル本です。
これによると、近年、賃貸物件の建設数は増えているのに、少子化の影響で借りたい人は減っているそうです。つまり需給関係が崩れ、戦後一貫して貸主有利だったこのマーケットにおいて、借主にとってのいい時代がようやくやってきたと。
この大前提をもとに、話は進みます。いい不動産屋さんの見分け方、不動産屋さんの営業トークにだまされないテク、内見のコツといった基本的なことから、礼金をタダにする交渉の仕方、賃貸物件の改造方法、前の部屋を退出するときの敷金返還交渉といったマニアックなことまで網羅されています。
僕は大学入学と同時に一人暮らしを始めて以来6回の引越しを経験しており、部屋探しについては一家言持っているつもりでしたが、この本を読んでまだまだだと反省。
章の間にコラムがあるのですが、それが人生訓に富んだ話ばかり。改めて、どこに住むかはどう生きるかなのだと実感した次第です。
ラベル: books
2.25.2008
山の神様の贈り物。
この週末は友人たちと志賀高原へスキーに行ってきました。
スキーをするのは実に5年振り。前回やった20代に比べ体力的にも筋力的にも落ちていると思ったのでやや心配でしたが、意外と体が覚えていてそれなりに滑れました。
ところが、天気にはほとんど恵まれず。
土曜日の午前中はこんな感じで幸先よかったのが、お昼頃から雪が舞いだし、
午後にはこんな感じに。雪が顔面を直撃して視界が狭くなり、いよいよ遭難の危険性を察知したため、宿まで戻ることになりました。
翌日の日曜日はスキーどころではありません。猛吹雪でリフトはすべて停止。所在無くなった僕たちは、午前中からビール飲みながらおしゃべりに明け暮れたのでした。
山の神様からは見放されましたが、ベルギービールを彷彿とさせる絶品の地ビールと出会えたのは幸運でした。
2.21.2008
環境問題の闇。
ちょいと衝撃的な記事を読みました。今月号の文藝春秋に掲載されていた『日本よ、「京都議定書」を脱退せよ』という記事です。地球温暖化問題を環境や人道面から捉えているのは日本だけで、他国はどこも熾烈な政治レースを展開しており、日本は完全に敗北しているというのがその主張です。
著者の武田邦彦氏は中部大学総合工学研究所教授で、『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』という本を出すなど積極的に発言しています。
著者いわく、1997年の京都会議で、CO2削減目標を「1990年比」とさせられたことが鍵となったそうです。なぜ1990年かというと、EU諸国やアメリカにとって一番都合のいい数字になるからで、日本のように1980年代から省エネに取り組んできた国は、削減する余地が少ないため不利になるわけです。確かに僕も当時「なぜ1990年比なんだろう?」と疑問に思った記憶があります。日本は議長国なのに蚊帳の外。
アメリカやEUの真の目的は、中国やインドといった新興国の経済発展を抑制することにあったと言います。結果的に中国やインドは京都議定書を批准せず、アメリカもEUも脱退したため、今や削減目標を負っているのは日本だけという状況。それも達成が困難なため、排出権を買って、また資金が流出していく。つまり、日本の一人負け状態が恒常化しているというわけです。
正直、この著者の主張には急進的すぎる部分があるとは思います。例えば、アル・ゴアにノーベル賞をあげたのは環境問題の正当性にお墨付きを与え、金をとるためだとか。また、温暖化によって最初に沈むと言われている南太平洋の小島ツバルは、実は温暖化の影響ではなく地盤沈下によるものだが、ツバルもこの状況にかこつけて献金してもらっているとか。このあたりの主張は、眉唾ものだと思います。
ただ、日本が国際政治で負けまくっているのは事実でしょう。日経の「私の履歴書」で今、日本サッカー協会の川渕三郎キャプテンが連載していますが、結果的に共催となった日韓ワールドカップの招致合戦でも、韓国に完全に食われていたのが分かります。この政治下手、何とかならないものでしょうか?
僕自身、昔から環境問題には関心があり、高校生の頃はクラスメートから「エコロジー野朗」などと呼ばれたこともあるのですが、ただ闇雲に「地球環境を何とかしなきゃ」と思うのは早計だということですね。
2.20.2008
Nice little walk in the morning.
今朝は山手線の渋谷駅が事故か何かの影響で大変なことになっていました。2本待っても乗れそうな気配がなかったので、恵比寿まで歩くことに。人の少ない明治通り沿いをテクテク、ちょいと気持ちのいい散歩になりました。それでも9時の始業前にはオフィスについていて、こうしてブログを書く時間まで。余裕をもって通勤するって、いいものです。
2.18.2008
日本の住宅事情の貧困さを憂う。
最近、週末は部屋探しに奔走しています。
東京の下町にありながらアクセスもよく(一応23区内)、「下町の底力スーパー」をキャッチコピーに掲げた場末なスーパーや、コンビニ、牛角、病院が近隣にある現在の部屋も気に入ってはいるのですが、もう少し郊外に引っ越せば今より家賃が下げられなおかつ広くなるのではないか、などと目論んでいるのです。
しかし、いい部屋ってほんと見つからないものです。
駅近の物件は部屋の広さに比して家賃が高いものですし、ちょっと広さを求めれば駅からの徒歩圏内を外れてしまう。ちなみに自転車嫌いの僕の中には、駅まで自転車で行くという選択肢はありません。駅前の混雑削減、歩行者の安全確保、かつ自身の健康のためにも、意地でも「歩き派」を貫こうと思っています。
それはさておき、不動産屋をまわるたびに日本の住宅事情の貧困さを憂いてしまいます。もちろん、「いい部屋」の定義は人によりけりですが、多様性を受け入れる度量の広さが日本の賃貸住宅にはないと思うのです。
結局、日本っていまだに土地神話が根強い国なのでしょう。賃貸は、持ち家を買うまでの一時的な住居という位置づけで、大家さんも長く住めるいい部屋を作ろうという気がないのではないでしょうか? 少子化により不動産価値の値上がりが見込めなくなった今後は、生涯賃貸という人々が増えてくると思うのですが。
2.14.2008
そう言えば今日って…。
仕事中にある女性社員が男性社員たちにチョコを配っていたのですが、珍しくちょっと忙しくしてた僕はスキー旅行か何かのお土産だと思い、「あ、ありがとうございます」と一言だけお礼を述べるにとどめ、夜になってようやく今日がバレンタインデーで、あれが義理チョコだったということに気付かされたのでした。
ラベル: others
2.12.2008
実は経済問題だった、ギョーザ中毒事件。
ギョーザ中毒事件については様々な報道や論考がなされていますが、僕が接した限りでは『プレジデント』最新号に載っているジャーナリスト富坂聰氏によるコラムが白眉です。日本の食料自給率低下という側面から今回の問題の奥深さを論じています。
要約すれば、こうなります。
・日本経済の失速の中で日本人がそれほど痛みを感じずにこれたのは、デフレのおかげ
・デフレは安価な中国製品によって成り立っている
・その中国には貧困層の問題が根深くあり、例えば工業用アルコールをニセ酒として売り出すなどモラルハザードが横行している
・中国抜きでの日本人の食生活はありえず、もはや中国の国内問題は日本の国内問題でもある
今回の事件は、中国という日本経済にとっての「鎮痛剤」を多用していたが故の副作用だっというわけです。
最近は日本経済に関して景気の悪い話ばかりですが、かのギョーザ中毒事件も一見食料問題かと思いきや、日本経済の凋落という問題を内包していたとは。
お酒との大人な付き合い方。
せっかくの三連休だということで、ヨメとちょっと大人な気分を味わおうと、バーになぞ行ってみました。
行ったのは下町風情が好きな門前仲町にあるバー。そこで、やや高級なウィスキーをストレートで味わってきました。少量のウィスキーをちびちびと、芳醇な香りとのどが焼けるような激しさを楽しみながら、時折チェイサーでのどを潤したりして。こんな大人な飲み方ができるようになっていたことが、ちょっぴり嬉しかったりします。
思い起こせば、学生時代はよく京都・木屋町のバーに入り浸って、安いウィスキーをがぶ飲みしていました。当時は味もよく分からず、明け方まで長居するために、水割りでとにかく流し込んでいたものです。そんな無鉄砲な飲み方をしていたから、当然のごとく吐いたり下痢したりぶっ倒れたり。今思えば、お酒に失礼ですね。。。
30歳を過ぎてからめっきりお酒が弱くなってしまったのですが、少量のお酒で濃い満足を得られるという意味ではよかったのかなと。
ラベル: gourmet
2.11.2008
オスのカンガルーの悲哀。
NHKの「ダーウィンが来た」という番組で、アカカンガルーの生態を見ました。
興味深かったのは、オスたちがメスをめぐって決闘すること。相手を見つけると、自分の肉体を誇示し、相撲のように間合いをとります。ゴングが鳴り響くや、相撲やキックボクシングを交えたような闘いをはじめ、最後は敗れた方が潔く去っていく。人間から見れば甚だしく滑稽なのですが、闘いのルールをきちんと守り、勝者も敗者も後腐れがない姿はラグビーのノーサイドのように清々しかったです。下記HPにその様子の写真があるので、ぜひご覧ください。
悲しいことに、勝ったオスもそれでメスを手に入れられるわけではなく、さらに次のオスと闘い続けなければならないのです。これは厳しい砂漠地帯を生き抜くために、強い遺伝子を欲するメスの性なのでしょう。人間界の場合、これに相当するのはやはり経済力でしょうか…?
http://www.nhk.or.jp/darwin/program/program089.html
ラベル: others
2.08.2008
辛さの魔力/陳麻婆豆腐
冷凍ぎょうざが大変なことになっていますが、中華料理がおいしいことに変わりありません。そんな折に、みなとみらいのクイーンズスクエアで発見してしまいました、陳麻婆豆腐。
激辛なのですが、一度この味にとりつかれると、そう簡単には抗えません。新宿に勤務していた時は、ビルの地下1階にあったため、週1ペースで通っていました。それどころか、新しく入ってきた人たちを連れていく、通過儀礼の場にさえなっていました。
麻婆豆腐は自分でもよく作りますが、ここの味はどうやったって再現できません。写真を見るだけで涎が出てきそうです。
ラベル: gourmet
2.07.2008
google三昧。
今に始まったことではないのですが、最近とみにgoogleづいています。
メールはすべてgmailに転送し、写真はpicasaで一元管理。休日はyoutubeで音楽PVをかけまくっていますし、もちろんこのbloggerもgoogle傘下です。googleカレンダーでヨメとスケジュールを共有し、双方のホウレンソウ不足によるダブルブッキングを排除しました。でも最大の功績は、googleドキュメントでオンライン上で家計簿をつけられるようになったことでしょう。結婚して以来、ノートにつけたり、家計簿ソフトを試したり、果てはExcelで簡易システムを作るなど試行錯誤しながらも、なかなか長続きしなかった懸案事項。それが、ついに解決したのですから。おかげで珍しくヨメにも褒められました。こんなこと、滅多にありません。
梅田望夫さんの一連の書籍を読む限り、googleは目指すところが並の企業とは根本からして違っています。これまでのパラダイムでは測れない、スケールが桁違いの企業だと本気で思っています。実際、僕らの生活も便利に変えてくれたわけですし。だからyahooをめぐるマイクロソフトとのバトルも、簡単に雌雄が決する気がしています。
ラベル: business
2.06.2008
HRD JAPAN 2008
昨日から4日間、みなとみらいのパシフィコ横浜でHRD JAPAN 2008(第27回能力開発総合大会)というイベントが開かれています。うちの会社もブースを出しているため、この4日間は横浜に通い詰めることになりそうです。
初日の昨日は、神戸大教授の金井壽宏先生と星野リゾート社長の星野佳路氏の対談を聴講しました。ただ結論から言えば、金井先生のキャリア論を期待していた身からすれば、やや期待外れでした。対談というよりも、金井先生がインタビュアーに徹し、星野氏が自社の成長戦略と人材の関わりを述べるという形式だったのです。もちろん星野氏のお話は面白く、リゾート産業についての知識は深まりましたが、金井先生の洞察の利いた発言を期待していただけに残念です。せっかく「特別対談」と銘打っていたのだから、「インタビュー」ではなく「対談」にしてほしかったものです。
日本の没落はバブル崩壊とともに始まったのではなく、1970年代以降、日本からの海外旅行者急増(お金の流出)に対し、海外からの旅行者受け入れ(お金の流入)が進まなかったときから始まっていた、という星野氏の意見が強烈に印象に残りました。
ラベル: business
2.04.2008
2.02.2008
中村俊輔の活躍を支える男。
水野晃樹のセルティック入団会見を見ていたら、隣にエジンバラ時代の友人Makotoが座っていました。以前から中村俊輔の通訳としてよくテレビで目にしていましたが、水野の通訳も兼任するのでしょうか。
海外でプレーする日本人選手たちにとって、通訳の存在は計り知れないはずです。俊輔の大活躍の裏には、もはやスコッツになりきったMakotoの存在があるのでしょう。ぜひ水野に対しても内助の功を発揮してほしいと思います。そしてMakotoにはしばらく会っていませんが、日本からエールを贈ります。
ラベル: football
歯は口ほどにものを言う。
半年に一度ほど、歯科検診と歯垢除去のために歯科医に行きます。僕の通っている歯科医さんいわく、歯を見ればその人の生活スタイルが分かる、そうです。
「あなたはタバコは吸わないけど、コーヒーやワインは飲みますね?」(正解!)
「何かスポーツをなさっていますね?」(正解!)
「もしかして左利きですか?」(これは不正解。でも、右側の歯を磨くときは歯ブラシを左手に持ち替えるようにしているので、あながち間違っているとは言えないかも)
初めて診てもらったとき、シャーロック・ホームズばりの推理に舌を巻いたものです。
たしかに、歯がきれいな人って清潔感があり、日常生活もきちんとしてそう。歯は口ほどにものを言うのですね。
ラベル: others
2.01.2008
『スウィーニートッド』
ようやくこの映画について語る気になりました。見たのが先週の土曜日。以来1週間近く、しばらく食事中や寝床でいくつかのおぞましい場面が脳裏をよぎったものです。
ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演と聞けば、『チャーリーとチョコレート工場』のようなほのぼのとした作品を想像したものです。ミュージカル映画というふれこみだったので、なおさらでした。ところが実際の映画は、れっきとした「ホラー」でした。
物語の舞台は19世紀のロンドン。判事に妻を横恋慕されたことから無実の罪で投獄された男は、出獄してからは理髪師になりすまし、復讐に燃える殺人鬼スウィーニートッドとなる。ヒゲをあたる振りをして、復讐の邪魔をするものの喉をカミソリで容赦なくかっ切っていく。さらにはパイ屋さんを経営する家主と結託し、死体の人肉でパイを焼き、お店は大盛況となっていく。ところが、殺してしまった人たちの中にいたのは…。とストーリーだけを見れば、いかにもイギリス的なブラックな悲劇です。
以前からミュージカルとして上演されていたとのことですが、舞台にとどめておくべきだったのではないでしょうか? それを実写にし、殺人シーンをあそこまでリアルに描く必要があったのでしょうか? グロいシーンの連続で、気分が悪くなる人がいてもおかしくありません。事実、上映中に途中退出していく人もいれば、エンドロールが流れ出した瞬間、多くの観客がようやく終わったとばかりに席を立っていきました。
ただ、冷静に考えれば、ティム・バートンに悪趣味な側面があるのはわかりきっていたことです。『マーズ・アタック』では火星人たちに何のためらいもなく人間たちを抹殺させていましたし、『チャーリーとチョコレート工場』にも過剰なほどの演出が目に余る場面がありました。どうせやるなら中途半端ではなく、とことん徹底的に、という彼なりの美学が見てとれます。人間は圧倒的なものを前にすると思考停止に陥り、笑うしかなくなるものですから。その意味では、今回の映画もその文法に則っており、彼の中では実は「コメディ」として位置づけられているのかもしれません。
どうやら映画界には、実績を出した監督にはご褒美として好きな映画を撮らせてあげる、という風習があるようです。しかしながら、そうして撮られた映画はえてして監督の自己満足に終わることが多いようです。最近では『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督が『キング・コング』をリメイクし、とてつもない駄作に仕立て上げていました。ティム・バートンもかねてからこの舞台を映画化したいと考えていたそうなので、彼からすれば夢が叶ったのでしょう。ただ、お金を払ってそんな自己満足に付き合わされた観客は、たまったものではありません。
http://wwws.warnerbros.co.jp/sweeneytodd/
ラベル: films