2.01.2008

『スウィーニートッド』

ようやくこの映画について語る気になりました。見たのが先週の土曜日。以来1週間近く、しばらく食事中や寝床でいくつかのおぞましい場面が脳裏をよぎったものです。

ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演と聞けば、『チャーリーとチョコレート工場』のようなほのぼのとした作品を想像したものです。ミュージカル映画というふれこみだったので、なおさらでした。ところが実際の映画は、れっきとした「ホラー」でした。

物語の舞台は19世紀のロンドン。判事に妻を横恋慕されたことから無実の罪で投獄された男は、出獄してからは理髪師になりすまし、復讐に燃える殺人鬼スウィーニートッドとなる。ヒゲをあたる振りをして、復讐の邪魔をするものの喉をカミソリで容赦なくかっ切っていく。さらにはパイ屋さんを経営する家主と結託し、死体の人肉でパイを焼き、お店は大盛況となっていく。ところが、殺してしまった人たちの中にいたのは…。とストーリーだけを見れば、いかにもイギリス的なブラックな悲劇です。

以前からミュージカルとして上演されていたとのことですが、舞台にとどめておくべきだったのではないでしょうか? それを実写にし、殺人シーンをあそこまでリアルに描く必要があったのでしょうか? グロいシーンの連続で、気分が悪くなる人がいてもおかしくありません。事実、上映中に途中退出していく人もいれば、エンドロールが流れ出した瞬間、多くの観客がようやく終わったとばかりに席を立っていきました。

ただ、冷静に考えれば、ティム・バートンに悪趣味な側面があるのはわかりきっていたことです。『マーズ・アタック』では火星人たちに何のためらいもなく人間たちを抹殺させていましたし、『チャーリーとチョコレート工場』にも過剰なほどの演出が目に余る場面がありました。どうせやるなら中途半端ではなく、とことん徹底的に、という彼なりの美学が見てとれます。人間は圧倒的なものを前にすると思考停止に陥り、笑うしかなくなるものですから。その意味では、今回の映画もその文法に則っており、彼の中では実は「コメディ」として位置づけられているのかもしれません。

どうやら映画界には、実績を出した監督にはご褒美として好きな映画を撮らせてあげる、という風習があるようです。しかしながら、そうして撮られた映画はえてして監督の自己満足に終わることが多いようです。最近では『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督が『キング・コング』をリメイクし、とてつもない駄作に仕立て上げていました。ティム・バートンもかねてからこの舞台を映画化したいと考えていたそうなので、彼からすれば夢が叶ったのでしょう。ただ、お金を払ってそんな自己満足に付き合わされた観客は、たまったものではありません。

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