5.17.2008

『4-2-3-1―サッカーを戦術から理解する』/杉山 茂樹

この本はすごいです。「ついに日本初“布陣の教科書”」という帯のコピーも納得の、知的にサッカーを楽しむための本。恥を恐れずに言えば、自分は今までなんて浅はかなサッカーの見方しかしていなかったんだ、とさえ思いました。

個人か組織か、というのはサッカーを語る際によく出てくる議論ですが、本書はフォーメーションという監督のとる戦術を切り口に、現代サッカーの見方を教えてくれます。2006年W杯で日本がオーストラリアに負けた理由、ギリシャがユーロ2004で優勝したのがサプライズではなかった理由などがよく分かりました。また、ジダンやフィーゴといった名選手も、ボールを持っていないときの動きは決して褒められたものではなかったことも。

もちろん、サッカーにおいてはファンタジーあふれる個人技、1対1での攻防、ミスや天候といった時の運なども重要。が、それらは布陣という大枠の上に起こる些事に過ぎないということが、この本を読むとよく分かります。サッカーとは、監督同士による、ピッチ上を俯瞰した上でチェスのように相手を追い詰めていく(スペースを奪っていく)知的なゲームなのだということを実感しました。

著者のメッセージは、決定力不足が永年の課題となっている日本代表に向けられます。フォワードが育ちにくい国なのだから、いかにゴール前で難易度の低いシュートをフォワードに決めさせることができるか、そこに英知を傾けるべきであると。この発想の転換は岡田監督に聞かせてあげたいものです。

なお、これを読んでからJリーグの試合を見たら、解説者が局地戦ばかりの話しかできていないことがありありと分かり、非常に物足りなく感じました。著者の杉山さん自身が解説者になってくれればいいのに…。