1.10.2008

『おひとりさまの老後』/上野千鶴子

日本を代表するフェミニズムの論客で、タレントの遙洋子さんの著作『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』によれば「日本一怖い女」の異名を持つ女性。それが上野千鶴子先生。

実は、僕は編集者時代に先生の連載を担当していたことがあります。社会学者なのでおカタイ文章ばかりかと思いきや、エッセーも非常に得意で、並の専業エッセイストよりもよほど軽妙洒脱な文章を書かれます。そこで、旅をテーマにしたエッセーを連載してもらうことにしたのです。

初めて東大にある先生の研究室を訪問したときのことは忘れません。前述の遥洋子さんの著作を読んでいただけに戦々恐々として伺ったところ、意外とやさしそうな人に見えました。少し安心し、気を緩めてしまったのがいけません。ある作家の新作に関して、僕は軽はずみな発言をしてしまったのです。その途端、彼女の眼鏡の奥で鋭い瞳が光りました。即座に突っ込まれ、たじたじになったのは言うまでもありません。どうやらその作家のことをいたく嫌っていたようなのです。

それ以降、先生にお会いするときは戦場に赴くような緊張感に包まれたものです。ですが、知識の幅広さや見識の深さはもちろんのこと、ユーモアあふれる人間性にどんどん惹かれていきました。

さて、そんな先生の最新作がこの本。タイトルからは介護をテーマにしたかのような印象を受けますが、要は理想の老後と死に方とはどういうものかを通して、人生をいかに楽しむべきかを論じているのです。

相変わらずのシングル主義者で、「おひとりさま」の方が人生を楽しめると公言してはばかりません。正直、独身時代に比べたら共感できる部分はだいぶ減ってしまいました。また、『スカートの下の劇場』や『発情装置』といった代表作に比べたらキレもないように思います。幅広い層の読者に読んでもらおうと、あえて軽いタッチにしたのだとは思いますが。それでも、節々に見られる上野節は健在。たしかに、結婚していようがいまいが、最後は皆一人になるわけです。これからの時代、年金をはじめあてにできるものも減ってくるわけで、そんな状況下でも人生を満喫するためのノウハウを教えてくれます。

そして、この本は主に女性向けに書かれているのですが、あとがきの最後に一言だけ男性へのメッセージが。引用させていただきます。

「なに、男はどうすればいいか、ですって?
そんなこと、知ったこっちゃない。
せいぜい女に愛されるよう、かわいげのある男になることね。」

さすがです。