1.05.2008

『長いお別れ』/レイモンド・チャンドラー

「ギムレットにはまだ早すぎるね」というセリフで有名なハードボイルド小説。以前からずっと読みたいと思っていながら、長さに尻込みしていたのと、その世界観に入り込むには日常から隔離される必要があると感じ、なかなか手をつけていられなかった一冊です。

最近ではあの村上春樹氏が新訳『ロング・グッドバイ』を出したことが話題になっていましたが、アマゾンのカスタマーレビューを比較検討した結果、古くからのファンから支持されている清水俊二氏の訳で読むことにしました。

ある大富豪の娘が惨殺され、夫が容疑者として手配されます。その夫も逃亡先のメキシコで自殺を遂げたとされますが、その死には謎が多い。私立探偵フィリップ・マーロウは生前の夫と酒(ギムレット)を飲み交わしたことがあり、その人間性にほれ込んでいたことから、彼の無実を信じ、独自に捜査を開始します。そして別の事件をきっかけに、真相が解明されていく…というのが大まかなストーリーです。

作家には「この1文のために」という作品があるようですが、この小説もまさにそう。終盤に出てくる「ギムレットにはまだ早すぎるね」の1文を語るために、チャンドラーは壮大なミステリーと人間模様を構築したのでした。それ以前のストーリーは、この言葉に重みを持たせるための伏線に過ぎません。

マーロウの生き方は非常に男っぽく不器用で、効率優先の現代社会では通用しないでしょう。それだけに、どことなく憧れを抱いてしまうのです。