3.01.2008

『ラスト、コーション』

映画の良し悪しは脚本で決まる――それを改めて確信させてくれた映画でした。

ヴェネツィア映画祭でグランプリを受賞するなど、前評判の高かったこの映画。それだけに、否が応にも期待値は高まっていたのですが…、残念ながら期待外れに終わってしまいました。その最大の理由は脚本です。

1940年代、日本支配下の中国で、日本の傀儡政権として恐れられていた高官暗殺をめぐる物語。演劇部の学生だった女優が、身分を偽って高官に近づきます。女性の魅力を使って高官を誘惑し、暗殺のチャンスをうかがうのですが…。

脚本における最大の欠陥は、彼女がそこまでリスクを負って高官暗殺に執着する理由が最後まで示されなかったことです。例えば肉親を殺されたとか、強烈な怨恨があるなら分かるのですが、演劇部の学生たちがある種のノリやファッションで政治活動に走っているようにしか見えませんでした。これがないまま、2時間半の長尺は過ぎていってしまい、納得感の薄い後味を残すこととなったのです。

当時の香港や上海を忠実に再現したであろう映像美や、任務にひた走りながら心を奪われてしまうトニー・レオンの憂いを帯びた演技、コーヒーカップについた口紅の跡などからじわりと妖艶さを醸し出すディテールにこだわった演出など、その他の要素が完璧だっただけに残念でなりません。

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