3.10.2008

『春、バーニーズで』/吉田修一

以前からタイトルにひかれ読みたいと思っていたこの短編小説。最近文庫化されたのと、季節が少しずつ春の息吹を帯びてきたのを機に、手に取ってみました。

主人公は恐らく僕と同年代の男性。息子の入園式に備え服を新調するために、妻に連れられ新宿のBARNEYS NEWYORKに向かいます。そこで遭遇したのは、かつての「恋人」…。

読後は、期待していたような内容とのあまりのギャップに拍子抜けしました。でも、その後じわじわと主人公の気持ちに共感できるようになっていきました。誰もが持っているであろう、自分を「大人」にしてくれた出会い。短編だからこそ解釈は読み手に委ねられ、短編小説の醍醐味を存分に味わうことができました。

短編小説は少ない情報量で読者を物語の世界へと誘わなければならず、長編小説よりはるかに難しいと言われます。それだけに、タイトルも重要な要素。この作品は、「春」「バーニーズ」という一部の人なら確実に胸がときめくであろう記号を巧みに盛り込んだことで、勝負ありです。広告のキャッチコピーのように一瞬で読者を射抜く、優れたタイトルだと思います。