9.23.2009

『Man in the Dark』/Paul Auster

本国アメリカでは昨年出版されたポール・オースターの新作。『New York Trilogy』もそうですが、オースターの小説は英語も平易でとても読みやすい。

自動車事故にあった72歳の老人が、病床で自分の過去を振り返ったり空想の世界に入り込んだりするというもの。映画制作を学ぶ孫娘との映画に関する“論考”(小津の『東京物語』が大きくクローズアップされています)。9.11を経験せず、イラク戦争がない代わりにアメリカ国内に起こっていた東西内戦というパラレルワールドに放り込まれた若い男の“物語”(村上龍の『五分後の世界』を彷彿とさせます)。自身の結婚生活の喜びや悔恨を孫娘に聞かせる“自叙伝”。これら現実と空想世界が並行して進みながらもシンクロしていくあたりは、まさにオースターの面目躍如といったところ。老人の人生を通じて家族の大切さや反戦への祈りを込めた、とてもメッセージ性の強い小説だと感じました。

題名のMan in the Darkは、直接的には病床の老人のことでしょうが、国際舞台で暗中模索するブッシュや保護主義に傾斜するアメリカ国民のことも暗示しているのでしょう。