1.08.2010

『リヴィエラを撃て』/高村薫

今でもよく覚えています。1992年、初めて本書が世に出たときのことを。ずっと読みたいと思っていながら時は経ち、ようやく読むことができました。そして、期待に違わずすごい小説でした。一文一文がズシリと重く、気軽に読み進めることなど到底できません。北アイルランド紛争や国際政治についての基礎知識と相応の覚悟を備えた上で挑むことが求められます。それだけに、読み終わったときには清々しい充実感がみなぎります。

著者が女性だということに当初驚かされましたが、すぐに合点がいきました。この人はいい意味での「夢見る夢子ちゃん」なんだと。主要登場人物たちは皆、ルックスがよく、知的で、勇敢で、義理人情に厚い。男性読者からすれば「こんな男いるわけない」となるわけですが、これが女性視点での理想の男性像なのでしょう。著者は、そんな理想のイイ男たちによるハードボイル・サスペンスを、小説という虚構の世界で紡ぎたかったのだと思います。

余談ですが、本書を読むときのBGMにはやはりU2やクランベリーズなどのアイルランド系が相応しいです。ボノやドロレスの哀愁を帯びた叫びが、本書に度々登場するアルスターの風景と絶妙にシンクロします。