4.25.2009

『決壊』/平野啓一郎

読み終わってしばらく放心してしまいました。著者がタイトルに込めた意味に、じっくりと向き合うことを強要されるように。

“決壊”という言葉からは、ただキレるとか壊れるというのではなく、堤防で抑えていたものが抑えきれなくなるというニュアンスを感じます。日本という社会の至るところで決壊が生じているということを、著者はこの上下二巻にわたる重苦しい長編を通して訴えたかったのでしょう。

平凡な一家を襲った連続バラバラ殺人事件を軸に物語は進みます。が、最初の殺人が起こるのは上巻の最後の方。それまでの登場人物たちの日常の中にこそ決壊する要素が見え隠れしていることを丹念に描いていきます。教育の問題点、ネット社会の恐ろしさ、警察の抱える矛盾など、様々なテーマを著者なりの視点でえぐっていきます。著者の平野氏は僕の2歳下ですので、感覚が近しいことを感じました。特に酒鬼薔薇事件に関しては、著者なりの解釈を展開したかったことがうかがえます。

決して読んでいて気持ちのいい小説ではありません。ただ、一度読み出したら、途中で本を置くことを否応なく拒否するような磁力があります。読者が試されているような気にさせられる、現代日本を生きる上での踏み絵のような小説です。