1.03.2009

『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』

あと一歩で歴史に残るシニカルな反戦映画になったことでしょう。“ソ連を滅ぼした男”として知られるアメリカの元下院議員の暗躍を、トム・ハンクスが映画化権を買い取り、『卒業』のマイク・ニコルズが監督。

1980年代。チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)は、オフィスに“チャーリーズ・エンジェル”と呼ばれる美女たちをはべらし(あの同名映画のモデルだそうです)、女遊びやコカインが大好きな破天荒な民主党議員。政治家としては大したことないけど、愛嬌あふれるキャラで人気があった。あるとき、大富豪の未亡人ヘリング(ジュリア・ロバーツ)から、アフガニスタンでソ連と戦うイスラム・ゲリラのムジャヒディーンへの支援を持ちかけられ、彼女の美貌にやられ協力することに。冷戦中のため、アメリカは表立ってアフガンを支援することはできないから、極秘作戦として予算を通し、最新鋭の兵器をムジャヒディーンに融通する。これを契機にソ連はアフガンを撤退し、ソ連崩壊へとつながったというわけです。後にこの暗躍が暴露されたチャーリーは、ソ連を滅ぼした英雄として持ち上げられることになるのです。

この映画の面白いところは、チャーリーがヘリングへの下心満載でアフガン支援を買って出たり、アフガニスタンとパキスタンを混同する議員がいたりと、アメリカの政治家がいかに自己の利益のために動いたり、世界情勢について無知であるかが皮肉たっぷりに描かれているところ。アメリカ政治の暗部を垣間見ることができます。

そして最大の皮肉は、アメリカという国が目の前の国益を重視するがために、“敵の敵は味方”式に長期の展望もなしに場当たり的な政策を取るという一貫性のなさ。10数年後、ムジャヒディーンの一味だったオサマ・ビン・ラディンが911を主導したことは、言うまでもありません。

だから個人的には、航空機がワールド・トレード・センターに突っ込む映像をエンディングに持ってくれば、最高にシニカルな反戦映画になったのに、と残念でなりませんでした。