4.15.2010

『月に囚われた男』

あのデイビッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズの長編初監督作品。大好きなSF映画ということもあり、躊躇なく見に行くことにしました。

個人的には、『2001年宇宙の旅』や『ブレードランナー』に匹敵する傑作だと思いました。というか、両作品へのオマージュと言ってもいいほど、随所に影響が。

近未来。ルナ・インダストリー(いわゆる資源メジャー)に雇われ、3年任期で一人、月へと資源の採掘に派遣された男の物語。唯一の話し相手は身の回りの世話をしてくれるガーティというコンピュータ。地球で待つ妻と幼子に会えるのを心待ちにしながら、黙々と任務をこなしていきます。ところが、任期終了まであと2週間というところで、幻覚を見るようになったり、誰もいないはずの基地に自分と瓜二つの人物が現れるなど異変が…。ガーティの制止を振り切り、謎を解こうとするサム(この場面は、『2001年宇宙の旅』のボーマン船長とHALのやりとりを彷彿とさせます)。そこで驚愕の事実を知ることになるわけです。

ネタバレになってしまいますが、すぐに分かることなので言ってしまいましょう。要は彼はクローンだったのです。つまり、妻や幼子というのは彼の記憶に埋め込まれた虚構で、彼はルナ社にいいように利用されていたわけです。この場面、自分の出自を知ったサムの心情にどこまで感情移入できるかで、この映画の印象や評価は大きく変わってくるでしょう。

『ブレードランナー』は、自分たちが人間ではないと知ったレプリカントたちが、自分たちを作った企業に復讐しに行く映画。『ブレードランナー』が素晴らしいのは、レプリカントを通じて「人間とは何か」という根源的な問いを発しているからです。『月に囚われた男』も、クローンを通じて同様のテーマを投げかけているわけです(サムがルナ社に復讐しに行ってもおかしくないでしょう)。SF映画って空想だからこそ大胆な設定や極論を展開できるわけで、思い切りのいいテーマに挑戦したダンカン・ジョーンズに拍手です!

そして余談ながら、どうしてもボウイの影を見てしまいました。主人公サムは、ボウイの初ヒット曲となったSpace Oddityのトム少佐を地で行くようだし(後に明かされたように、実は麻薬中毒者で幻覚を見ていた点も相通じます)、ボウイが宇宙人を演じた映画『地球に落ちてきた男』の逆バージョンにも思えます(だから邦題も『月に囚われた男』なのか? ただし、原題はシンプルに「Moon」)。この映画はイギリスでは新人映画賞などを総なめにしたそうですが、親子そろって「月」つながりの作品が出世作となるとは…!

http://moon-otoko.jp/