3.29.2009

『告発のとき』

「イタリア300年の政争はルネッサンスを生んだ。スイス500年の平和は鳩時計を生んだだけだ」とは映画『第三の男』の悪役ハリー・ライムの名台詞。戦争を題材にした優れた作品を目にするたびに、この名言を思い起こします。

この映画を見たときもそう。イラク帰還兵の失踪事件の真相を父親が追い、次第に息子がイラクで体験した壮絶な事態に行きつくという映画。父自身、元憲兵で熱烈な愛国主義者。ところが事件を調べるうちに、今の米国がどうしようもなく病んでいることを痛感するようになります。それを象徴するのが逆さに掲げられた星条旗。これは「どうにもならない、助けてくれ」という救難信号を示します。

イラク帰還兵の間にPTSD(心的外傷ストレス障害)が急増しているという事実を知った映画監督兼脚本家のポール・ハギスは、この話を映画にしなければいけないと痛切したそうです。周囲の反対を押し切ってアメリカを告発するような作品を撮り上げた彼の勇気に拍手です。

ただ、せっかくのいい映画なのに邦題が意味不明。原題はIn the Valley of Elahで、聖書に出てくるダビデとゴリアテの戦いの場所、今のイラクを指します。これはアメリカという巨大権力に映像作品という飛び道具で立ち向かう、ポール・ハギス自身のメタファーでもあります。