2.10.2011

『歌うクジラ』/村上龍

ようやく読み終わった、というのが読了直後の正直な感想です。iPad版が出た時から興味をそそられ、書籍版が出てすぐに購入したものの、なかなか読み進めることができませんでした。物語の世界に入り込みにくいことに加え、暴力や性の描写がグロすぎました。期待していただけに落差は激しく、途中何度も挫折しかけました。3360円という投資をしていなければ、とっとと投げ出していたかもしれません。

ストーリーとしては、現代とはまるで世界観が違う22世紀の日本を舞台に、あるミッションを背負った少年が目的地へ向かって旅をし、その途中で様々な経験をするというもの。ところが、その過程で少年が成長していくというありがちな冒険譚では決してなく、落としどころがつかみづらいのです。登場する人物たちも特に魅力的というわけではなく、誰かに感情移入することも難しい。読み手の忍耐力や想像力が試されているという印象を持ちました。そして最後になって、ようやくすべてつながりました。魂を揺さぶられたことは事実です。

なぜ村上龍はこのような小説を書いたのか? ダンテの『神曲』も発表当時から毀誉褒貶にさらされ、その後徐々に世界文学の代表作としての評価が確立したそうです。想像するに、出版界に一石を投じた発表形式、文化経済効率化運動という未来観、文法的に無茶苦茶で読みにくい日本語などすべての要素を含め、読者の賛否両論を煽り、後世に評価を委ねることこそ、村上龍の望むところではなかったかと思えるのです。