1.30.2010

Men with Sticks/John Lurie National Orchestra

というわけで、家にあるジョン・ルーリーのCDを全部引っ張り出して聞きなおしています。

Lounge Lizards時代もいいんですが、僕の一番のお気に入りはやっぱりこれ。93年に発表されたユニットとしてのアルバムです。

非常にジョン・ルーリーらしい、人を食ったようなアルバムだと言えます。なんせ、たった3人なのにNational Orchestraを名乗っちゃう。1曲目のIf I Sleep the Plane Will Crash(このタイトルも笑っちゃう…)は30分以上の大作。肝心の音は、ドラムとパーカッションがひたすらリズムを刻み、そこへジョンが自由気ままにサックスをかぶせている感じ。

実はこのCD、購入当初は失敗したと思っていました。それが、聞けば聞くほどに味が出てきて、その後は大のお気に入りへと昇格。非常にピュアで、躍動感にあふれた音を聞いていると、原初の荒野が目に浮かんできます。もしかして人類が最初に音を楽しみだした(つまり音楽の起源)頃って、こんな感じだったのかな、なんて。あまりの心地よさに聞いていると眠くなるので、不眠症の人にもオススメです。ジャケット写真含むビジュアルも抜群に良いです!

ジョン・ルーリーに圧倒された!

ワタリウム美術館で今日から始まったジョン・ルーリーのドローイング展に行ってきました。

ジョン・ルーリーと言えば、ジャズ・ミュージシャンとして、はたまたジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に出演し個性派俳優として活躍するなど、ニューヨークという街がとても似合う個性的でスタイリッシュな存在でした。音楽でも映画でも、どこか人を食ったようなところがあるのが彼の特徴。観客は肩透かしを食らってしまうのです。90年代半ば以降しばらく名前を聞かないな、なんて思っていたらライム病という難病を患っていたと数年前に雑誌で読みました。音楽ができなくなっているため、絵を描くことで自分を表現しているとも。

そして表現手段が何であれ、ジョン・ルーリーはジョン・ルーリーでした。大胆な構図に派手な色遣い。一見、子どもの落書きにも思える“ヘタウマ”系の絵。でも、よく見るとディテールにすごい凝っている。そして何と言ってもタイトルの付け方が抜群にユーモラス。アートを見に行って笑いが止まらない、なんてことは滅多にないでしょう。一例を挙げれば、「アメリカ人女性は武器を持つ権利がある(American Women Have The Right To Bear Arms)」という絵は、女性らしき人物の腕が熊(Bear Arms)になって威嚇しているというダジャレ。「私のアパートには毛皮を検査している原始人が住んでいる。出て行ってくれるといいのだが。」は真っ赤な部屋で原始人らしき人物が机に座って毛皮を精査しており、その上を草木がアクションペインティングのように覆いかぶさっている絵。なかなか言葉で表現するのは難しいので実際に見に行って欲しい。ツボにはまる人ははまるでしょう。

http://www.watarium.co.jp/exhibition/1001john/index.html

1.24.2010

『マルコムX』

マルコムXって、その風貌や名前からして怪しげな人物だと思っていました。キング牧師とは対照的に、暴力的手段も辞さずに黒人解放運動を指導した、くらいの。それが、この映画を見たら認識が180度変わりました。結局のところ、彼は利用されただけなんですね。

そもそも父が黒人解放運動家で、マルコムが子どもの頃に殺害されてしまう。マルコムは当然のようにチンピラの道を歩むわけですが、窃盗の罪で服役中、そそのかされて急進的な教団に傾倒してしまう。頭が良くて、度胸もあって、カリスマ性があったから、出所後は教団のスポークスパーソンに据えられてしまった。ところが、教団のいかがわしさに気づき、メッカへの巡礼を経て考え方も融和されたら、今度は教団から敵対視され命を狙われるはめになってしまう。。。時代に翻弄されたその悲劇的な人生を見ていたら、何とも心が痛みました。

映画作品としては素晴らしいと思います。3時間半近い長編かつセンシティブなテーマを扱っているにもかかわらず、重苦しさは感じさせません。それどころか、色鮮やかなスーツに身を包みダンスホールを躍動するシーンは圧巻。当時の記録映像も交えながら、最後はネルソン・マンデラ氏が登場してメッセージを発するなど、人種差別について考えさせられる作品となっています。

1.09.2010

『Twilight』/Stephenie Meyer

以前から素敵な表紙で気になっていたこの本。オーストラリアでは続編の映画公開間近ということから書店で山積みセールになっており、購入してみました。

田舎町の高校に転入した女子生徒と、抜群の美貌を持つ男子生徒の恋物語。男子生徒が実はヴァンパイア(ただし、人の生き血は吸わず、人と共存することを選んでいる)で、その得意な能力で彼女を守るというもの。学園ものファンタジーという設定やシリーズ化していることから、ハリポタと比較されることが多いようです。

残念ながら僕に取っては時間とお金のムダとなってしまいました。登場人物たちに最後まで感情移入できませんでした。ヴァンパイヤだけにありえない能力を発揮しちゃうんですもの。ある意味、少女趣味のファンタジーというのは30代男性とは最も相容れないジャンルかもしれません(そもそも内容もよく知らずに購入したのがいけなかったのですが…)。

1.08.2010

『リヴィエラを撃て』/高村薫

今でもよく覚えています。1992年、初めて本書が世に出たときのことを。ずっと読みたいと思っていながら時は経ち、ようやく読むことができました。そして、期待に違わずすごい小説でした。一文一文がズシリと重く、気軽に読み進めることなど到底できません。北アイルランド紛争や国際政治についての基礎知識と相応の覚悟を備えた上で挑むことが求められます。それだけに、読み終わったときには清々しい充実感がみなぎります。

著者が女性だということに当初驚かされましたが、すぐに合点がいきました。この人はいい意味での「夢見る夢子ちゃん」なんだと。主要登場人物たちは皆、ルックスがよく、知的で、勇敢で、義理人情に厚い。男性読者からすれば「こんな男いるわけない」となるわけですが、これが女性視点での理想の男性像なのでしょう。著者は、そんな理想のイイ男たちによるハードボイル・サスペンスを、小説という虚構の世界で紡ぎたかったのだと思います。

余談ですが、本書を読むときのBGMにはやはりU2やクランベリーズなどのアイルランド系が相応しいです。ボノやドロレスの哀愁を帯びた叫びが、本書に度々登場するアルスターの風景と絶妙にシンクロします。